日本ではシビックの名称は既に消滅していますが、北米市場では現在でも販売が続けられており、セダンとクーペがラインアップされています。
以前にシビックセダンのハイパフォーマンスモデルであるシビックSiセダンの試乗レポートを掲載しましたが、今回は米国「Car and Driver」によるシビックSiクーペの試乗レポートを日本語で紹介します。

「ホンダは情熱を失ってしまったとよく言われる。ただそれは事実ではない。我々は今、情熱を温めている最中だ。」――これはホンダ内部の人間が匿名を条件にこっそりと話してくれた言葉だ。結局、S2000の終焉の後、シビックSiがホンダ唯一の四輪パフォーマンスモデルとなっている。ただ、もしシビックSiにマツダスピード3(日本名: マツダスピードアクセラ)やフォルクスワーゲン・ゴルフGTIのような熱さを欲しているなら、その期待は報われないかもしれない。
先代モデルのシビックSiにはアルミニウム製2.0L自然吸気4気筒エンジンが搭載されていた。このエンジンにはホンダ渾身のi-VTEC DOHCシステムが備わっており、200PSという驚くべき出力を7,800rpmで発揮した。これは小排気量で大出力を発揮するというホンダの典型的なハイパフォーマンスエンジンであり、ボア・ストロークとも86mmで、高回転型(レッドゾーンは8,000rpm)のエンジンだった。アクセルを踏み込めば明らかなトルク不足を感じるもののパワーは強まっていき、比較的安価なシティカーでレーシングカーのテイストを感じられる非常に価値のある車だった。
ところが、新型シビックSiは方向性を変え、2.0Lエンジンは2.4Lのi-VTECエンジンに置き換わり、ボアは87mm、ストロークは99mmと、明らかにロングストロークな設計に変わっている。つまり、先代のような高回転域での盛り上がりはなくなってしまったということだ。レッドゾーンと最高出力発生回転数は7,000rpmとなっているものの、最高出力はわずかに向上して204PSとなり、中回転域で明らかに力強くなっている。高回転域での盛り上がりの代わりに得られたのは先代よりも向上したトルクだ。先代では最大トルク19.2kgf·mが6,100rpmで発揮されたが、新型では最大トルクが23.5kgf·m/4,400rpmとなっている。また、ロングストローク化により燃費性能や排出性能の向上も期待できる。
トランスミッションには先代同様滑らかな6速MTのみが設定され、この点には何の不満もない。ただ、EPA燃費は先代と変わらず、シティ9.4km/L、ハイウェイ13.2km/Lで、指定燃料がハイオクである点も変わらない。
エクステリアデザインは2005年に登場した先代モデルとあまり変わらないように見える。たしかに細かい部分は変わっているが、先代モデルから基本的なデザインは変わっていない。ただ、全く同じというわけでもなく、ボディサイズはほとんど変わっていないが、ホイールベースはクーペで280mm短縮されている。
シビックSiとはいえ、ホンダの乗り心地に対するこだわりを考えればホイールベースの短縮は驚くべきことだ。ただ、新型では剛性も向上している。エンジニアチームによると、静剛性は10%、動剛性は12%向上しているそうで、これによってサスペンションチューニングの自由度も上がっている。先代同様シビックSiは標準モデルのシビックよりもスプリングレートが高められ、サスペンションブッシュが強化され、ダンパーのセッティングも変更されている。リミテッドスリップデフや電動パワーステアリングは旧型と共通だ。
では、これだけの改良によってシビックSiはより良い車となっているのだろうか。今回は街中と駐車場内に作られたオートクロスコースでの限られた時間での試乗しかできなかったため、結論は出せない。ただ、タイヤサイズが215/45R17と旧型と変わらないながらもグリップは十分ありそうだし、ブレーキローターが大型化されているため、先代に足りなかった制動力は強化されているはずだ。スタビリティコントロールが介入し始めるのは早いので、サーキットで走らせる際にはオフにしたほうがタイムを出せるだろう。この車に重要かどうかはともかく、乗り心地の面でも進化している。ただ、モーションアダプティブEPSは軽くて曖昧さが残り、それにロック・トゥ・ロックは3.1回転とこのタイプの車にしてはスローだ。
街中というコンディションには新エンジンも合っているようで、低回転域でも従来よりパワフルだ。2.0Lのような高回転域での叫びを聞くことはできなかったが、それでも排気音のテノールの響きは気持ちいい。ただ、それでも疑問は残る。果たしてわずかな馬力の向上でマツダスピード3やゴルフGTIに直線加速で対抗できるのだろうか。それに、まだ乗れていないが新型フォード・フォーカスSTというライバルも存在する。
シビックSiクーペの価格は22,955ドルからとなる(シビックSiセダンは23,155ドル)。唯一の独立オプションは200ドルのハイパフォーマンスサマータイヤだ。カーナビと衛星ラジオはセットオプションで1,500ドルとなる。このため、装備をそれなりに揃えると価格がマツダスピード3やゴルフGTIと同等となってしまう。
内装の質感は向上しており、フロントバケットシートは快適性を犠牲とせずにサイドのサポート性を高めているし、赤いステッチやアクセントは子供っぽさを感じさせることなくスポーティさを演出している。今回の限られた試乗では、この車は万人に満足の行く内容となっているように思えた。けれど、もし我々のように先代モデルにあった独特の情熱を渇望するなら、新型は期待はずれということになってしまうだろう。
2012 Honda Civic Si First Drive
以前にシビックセダンのハイパフォーマンスモデルであるシビックSiセダンの試乗レポートを掲載しましたが、今回は米国「Car and Driver」によるシビックSiクーペの試乗レポートを日本語で紹介します。

「ホンダは情熱を失ってしまったとよく言われる。ただそれは事実ではない。我々は今、情熱を温めている最中だ。」――これはホンダ内部の人間が匿名を条件にこっそりと話してくれた言葉だ。結局、S2000の終焉の後、シビックSiがホンダ唯一の四輪パフォーマンスモデルとなっている。ただ、もしシビックSiにマツダスピード3(日本名: マツダスピードアクセラ)やフォルクスワーゲン・ゴルフGTIのような熱さを欲しているなら、その期待は報われないかもしれない。
先代モデルのシビックSiにはアルミニウム製2.0L自然吸気4気筒エンジンが搭載されていた。このエンジンにはホンダ渾身のi-VTEC DOHCシステムが備わっており、200PSという驚くべき出力を7,800rpmで発揮した。これは小排気量で大出力を発揮するというホンダの典型的なハイパフォーマンスエンジンであり、ボア・ストロークとも86mmで、高回転型(レッドゾーンは8,000rpm)のエンジンだった。アクセルを踏み込めば明らかなトルク不足を感じるもののパワーは強まっていき、比較的安価なシティカーでレーシングカーのテイストを感じられる非常に価値のある車だった。
ところが、新型シビックSiは方向性を変え、2.0Lエンジンは2.4Lのi-VTECエンジンに置き換わり、ボアは87mm、ストロークは99mmと、明らかにロングストロークな設計に変わっている。つまり、先代のような高回転域での盛り上がりはなくなってしまったということだ。レッドゾーンと最高出力発生回転数は7,000rpmとなっているものの、最高出力はわずかに向上して204PSとなり、中回転域で明らかに力強くなっている。高回転域での盛り上がりの代わりに得られたのは先代よりも向上したトルクだ。先代では最大トルク19.2kgf·mが6,100rpmで発揮されたが、新型では最大トルクが23.5kgf·m/4,400rpmとなっている。また、ロングストローク化により燃費性能や排出性能の向上も期待できる。
トランスミッションには先代同様滑らかな6速MTのみが設定され、この点には何の不満もない。ただ、EPA燃費は先代と変わらず、シティ9.4km/L、ハイウェイ13.2km/Lで、指定燃料がハイオクである点も変わらない。
エクステリアデザインは2005年に登場した先代モデルとあまり変わらないように見える。たしかに細かい部分は変わっているが、先代モデルから基本的なデザインは変わっていない。ただ、全く同じというわけでもなく、ボディサイズはほとんど変わっていないが、ホイールベースはクーペで280mm短縮されている。
シビックSiとはいえ、ホンダの乗り心地に対するこだわりを考えればホイールベースの短縮は驚くべきことだ。ただ、新型では剛性も向上している。エンジニアチームによると、静剛性は10%、動剛性は12%向上しているそうで、これによってサスペンションチューニングの自由度も上がっている。先代同様シビックSiは標準モデルのシビックよりもスプリングレートが高められ、サスペンションブッシュが強化され、ダンパーのセッティングも変更されている。リミテッドスリップデフや電動パワーステアリングは旧型と共通だ。
では、これだけの改良によってシビックSiはより良い車となっているのだろうか。今回は街中と駐車場内に作られたオートクロスコースでの限られた時間での試乗しかできなかったため、結論は出せない。ただ、タイヤサイズが215/45R17と旧型と変わらないながらもグリップは十分ありそうだし、ブレーキローターが大型化されているため、先代に足りなかった制動力は強化されているはずだ。スタビリティコントロールが介入し始めるのは早いので、サーキットで走らせる際にはオフにしたほうがタイムを出せるだろう。この車に重要かどうかはともかく、乗り心地の面でも進化している。ただ、モーションアダプティブEPSは軽くて曖昧さが残り、それにロック・トゥ・ロックは3.1回転とこのタイプの車にしてはスローだ。
街中というコンディションには新エンジンも合っているようで、低回転域でも従来よりパワフルだ。2.0Lのような高回転域での叫びを聞くことはできなかったが、それでも排気音のテノールの響きは気持ちいい。ただ、それでも疑問は残る。果たしてわずかな馬力の向上でマツダスピード3やゴルフGTIに直線加速で対抗できるのだろうか。それに、まだ乗れていないが新型フォード・フォーカスSTというライバルも存在する。
シビックSiクーペの価格は22,955ドルからとなる(シビックSiセダンは23,155ドル)。唯一の独立オプションは200ドルのハイパフォーマンスサマータイヤだ。カーナビと衛星ラジオはセットオプションで1,500ドルとなる。このため、装備をそれなりに揃えると価格がマツダスピード3やゴルフGTIと同等となってしまう。
内装の質感は向上しており、フロントバケットシートは快適性を犠牲とせずにサイドのサポート性を高めているし、赤いステッチやアクセントは子供っぽさを感じさせることなくスポーティさを演出している。今回の限られた試乗では、この車は万人に満足の行く内容となっているように思えた。けれど、もし我々のように先代モデルにあった独特の情熱を渇望するなら、新型は期待はずれということになってしまうだろう。
2012 Honda Civic Si First Drive