インド市場ではフィアット・プントをベースとしたクロスオーバーSUV「アッヴェンチューラ」が販売されています。

今回は、インド「OVERDRIVE」によるフィアット・アッヴェンチューラの試乗レポートを日本語で紹介します。


Avventura

'Avventura'とは、イタリア語でアドベンチャー、すなわち冒険を意味する。フィアット・アドベンチャーといえばインドで10年ほど前に売られたクロスオーバーSUVの名前だ。一方のフィアット・アッヴェンチューラの名前は2014年のニューデリーオートエキスポに出展された派手なオレンジ色のクロスオーバーコンセプトとして名を馳せた。そして結局、このアッヴェンチューラは市販が決まり、その上デザインはコンセプトモデルの派手さを残している。

アッヴェンチューラはアドベンチャーと同じ道を辿っている。オフロードや舗装の悪い道にも対応できるように、ベースモデルのハッチバックからボディを強化し、サスペンションのセッティングを変更している、という点で共通している。アドベンチャーはステーションワゴンであるフィアット・パリオウィークエンドをベースとしていたのに対し、アッヴェンチューラはフィアット・プントをベースとしており、どちらにしても正真正銘のオフロードカーとは言えない。基本的なデザインはプントと共通で、コンセプトカーとは違いヘッドランプはプロジェクタータイプではない。テールランプやリアバンパーに設置されるバックフォグとストップランプはプントと共通だ。

プントとの最大の違いはテールゲートにスペアタイヤが付いている点だ。似合わないというほどではないが、それでもプントがバックパックを背負っている姿に見慣れるためにはそれなりの時間がかかりそうだ。このスペアタイヤはバンパーに固定されており、リアハッチとは別に動く。初代メルセデス・ベンツ Mクラスと同じように、リアハッチを開けるためにはまずその前にスペアタイヤを横に退ける必要がある。このような複雑な段階を踏まないと荷室に辿り着けないため、ホテルでセキュリティチェックを受ける際には混乱が生じてしまうだろう。スペアタイヤカバーにはアッヴェンチューラの車名が入っており、なかなか良さげだが、ただ貼られている反射テープは商用車のもののようなチープさで残念だ。

rear

外装部品にはブラックの樹脂パーツが多く使われており、前後のスキッドプレートとも一体化している。ワイルドなフロントバンパーのおかげで、元々大人しめなフロントフェイスがアグレッシヴで現代的な印象に変わっている。また、専用のルーフレールや、ドアガードからフロントグリル、ドアハンドルに至るまで各所に用いられる樹脂パーツのおかげで、より活動的な印象となっている。アッヴェンチューラのデザインは洗練された雰囲気で、他の多くのクロスオーバー風ハッチバックのような付け焼き刃な印象はない。

インテリアは基本的にプントと共通だが、ここにもアッヴェンチューラらしさは十分にある。一番目立つのが、センターコンソールに配されたコンパスとクリノメーターだ。これらはオーディオシステムの上の、プントでは小さな収納スペースだった部分にある。クリノメーターはロールとピッチを表示し、実際に使える。実際、車のロール角度もしっかりと表示するし、しかもその数字は結構大きい。ダッシュボードやドアにはシボ加工が施されており、質感を高めている。

interior

専用のシートもなかなかいい。これにはフェイクレザーが使われているのだが、座面や背もたれのうちでも汗をかく部位が当たるような部分はファブリック素材で構成されている。それにシートのフェイクレザー部分にはブラウン系の色が用いられており、これもセンスがいい。

フォルクスワーゲン・クロスポロのようなモデルとは違い、アッヴェンチューラはただプントの見た目を変えただけの車ではない。メカニズム面での変更も施されている。一番大きな違いはプントよりもハード寄りになったサスペンションだ。これにより、クラスでもトップレベルの205mmという地上高を達成しつつも、同時にコーナーでは重心の高さを物ともせず落ち着いてコーナーをクリアすることができる。それに、跳ねるような乗り心地にもなっていない。乗り心地の良さや安定した走りはプントの強みだが、アッヴェンチューラでもそれは変わっていない。アッヴェンチューラは全モデルに16インチホイールが装着され、タイヤは205扁平という幅広なものとなる。

街中で走るスピードではステアリングは少し重くも感じられるが、フィードバックは十分にあるし、クラスきっての正確性も併せ持つ。しかし、都市部ではスペアタイヤが問題になる。この車にはパーキングセンサーなどは装備されていないため、購入する前に一度狭い場所での駐車を試してみる必要がありそうだ。プントベースなので、フォード・エコスポーツのようにやたらシート位置が高いなんてことはなく、普通の乗用車とあまり変わらない感覚だ。ただ、フロントウインドウは大きいし、視界は良くなっている。

プントには、1.2LのFIREガソリンエンジンと、1.3LのMultijetディーゼルエンジンの75PS版が設定されているが、アッヴェンチューラには、1.4LのFIREエンジンと1.3L Multijetの90PS版が設定される。今回試乗したのはディーゼルモデルだ。フィアットらしくペダルのリーチが長いため、慣れを要する。クラッチペダルのリーチが長いことはエンストのしやすさにも繋がるので、アッヴェンチューラではエンストを防ぐために低回転域のトルクが増強されている。もっとも顕著な違いではないのだが、それでも喜ぶべきことだろう。アッヴェンチューラは同じフィアット製Multijetエンジンを搭載するスズキ・スイフトやタタ・ビスタほどパワフルな印象ではない。ボディはしっかりとしているのだが、それは重量としてもはっきりと感じられてしまう。

アッヴェンチューラはフォード・エコスポーツのような車のライバルとも見做されるだろうが、実際のところはフォルクスワーゲン・クロスポロやトヨタ・エティオスクロスといった車と同列に扱うべきだろう。ただ、内装の仕上がりや装備内容、室内空間などの面では他のクロスオーバーハッチバックとは一線を画している。アッヴェンチューラは10年前に設計された車をベースとしているものの、この車にはフレッシュな印象がしっかりとあった。


2014 Fiat Punto Avventura India first drive