以前、豪州フォードのロングセラーモデル、ファルコンのハイパフォーマンスモデルであるファルコンXR8の試乗レポートを掲載しました。

そんなファルコンの長年のライバルが豪州のGM系自動車メーカー、ホールデンが製造するFRセダン、コモドアです。そんなコモドアをベースに、ホールデンのハイパフォーマンスモデル開発部門であるHSV (Holden Special Vehicles) が開発したハイパフォーマンスモデルが、HSV GTSです。

現在販売されているのは、VF型コモドアをベースとしたHSV Gen-F GTSと呼ばれるモデルで、今回は豪州「Motorama」による、このモデルの試乗レポートを日本語で紹介します。


HSV GTS

HSV Gen-F GTSはホールデン・コモドアをベースとした最後のHSVのモデルであり、そしてこれこそが最高のモデルになりそうだ。

このモデルには、シボレー・カマロに搭載されるOHV LSA型V8エンジンが搭載され、最高出力585PS、最大トルク75.5kgf·mを発揮する。このV8エンジンはターボチャージャーではなくスーパーチャージャーにより過給が行われており、欧州車を圧倒するパフォーマンスを叩き出している。

直線でもコーナーでもこれだけのパフォーマンスを有効に使うため、アジャスタブルサスペンションやトルクベクタリングシステム、応答性の高いステアリングが装備されており、静粛性優先のモードとエグゾーストサウンドを咆哮させるモードの2つのエグゾーストモードが設定される。この結果、オーストラリアのマッスルカーとして相応しいモデルとなっている。0-100km/hをわずか4.4秒で駆け抜けるだけの性能を持ちながら、ANCAPで5つ星を獲得するだけの安全性も両立している。ただし、代償もある。この車はHSV GTS史上最も高価だ。では、この車のパフォーマンスにはそれだけの価値があるのだろうか。検証してみよう。

HSV Gen-F GTSは、現在オーストラリアで販売されている車の中でも最も速い車の1台であるが、この車に最初に対面した時はそれほどの感慨はなかった。リップスポイラーやデイライト、穴の空いた大径ブレーキにイエローのキャリパー、大型リアスポイラーなどで飾られたこの車は、あまりにも派手だ。この車にはたとえブラックのボディカラーを選択したとしても、慎ましやかさというものが全くない。

インテリアはベースモデルのVFコモドア同様素晴らしく、ソフトな素材が用いられている。GMのMyLinkテレマティクスシステムやステアリングもVFコモドアと共通だ。また、HSV専用のバケットシートやヘッドアップディスプレイ、HSV EDIシステム(走行データなどを表示するインターフェイス)なども装備され、まるで天国のような居心地だ。これだけでは終わらない。プッシュエンジンスターターを押せばV8のオーケストラが立ち上がり、半径10km圏内にこの車の存在を知らしめることだろう。

Interior

6速MTと6速AT設定され、どちらを選ぶかによって車のイメージは大きく変わる。この車のあらゆる全てを自分の意図通りに操作したい人はマニュアルを選べばいいし、MT車よりも少しリラックスして運転し、この車の走りを堪能したいならば我々が今回試乗したAT車を選べばいいだろう。そしてこの車の走りがまた素晴らしい。ドライブモードセレクターのお陰で、自分の好みに合ったセッティングにすることができる。快適なツーリングモードから、楽しさに満ち溢れたスポーツモード、より走りに振ったパフォーマンスモード、さらに勇敢ならばトラックモードまで、4つのドライブモードを選択することができる。試乗を通し、我々はスポーツモードが最も走りと快適性のバランスに優れていると感じた。

高速道路の入り口で先頭を走っているなら、心を砕くような、漏らしてしまいそうな、恐ろしい加速を体験することができる。リアは沈み込み、275/45R20のタイヤにグリップを得るために必要十分な荷重がかかり、何も考える間もなく100km/hに到達してしまう。ただ、誤解しないで欲しいのだが、この車はただの直線番長ではない。高速コーナーでもしっかりとグリップしてくれる。パフォーマンスモードやトラックモードではトルクベクタリングシステムも働き、同時にESCがアンダーステアを検知して制御することでコースアウトを防ぐので、自信を持って運転することができる。

だが、GTSの最も驚くべき側面というのは、この車は状況によって性格を大きく変え、時には快適なハイウェイ・クルーザーへと変貌を遂げるという点だ。ツーリングモードでは静粛性が高まり、後部座席の子供がゆっくり眠れるくらい乗り心地も良くなる。これだけ劇的にサスペンションのセッティングを変えることができるのは、マグネティックライドコントロールシステムの恩恵によるものだ。このシステムには3段階のセッティングがあり、デュアルコイルピストンを備えることで操作性を向上し、荷重移動に対する応答性が高められている。この車に燃費の良さを期待する人はそれほどいないだろうが、高速ではアクティブフューエルマネジメントシステムのお陰で10km/L以上の燃費をマークする。

ファミリーセダンとして考えても、この車の快適性は高いレベルにある。190cmのドライバーの後ろに195cmの乗員が乗っても十分に快適だ。トランクも十分に広く、例えばバーベキューセットなども載せることができる。さらに、この車には細やかな気配りもある。オートマチックパーキングシステムやフロント・リアセンサー、バックカメラが装備されているため、駐車に苦労するようなことはない。また、駐車場からバックで出るときに横から来る車を警告してくれるトラフィックアラートシステムが標準装備されているので、前向き駐車をすることに躊躇することもなくなるだろう。また、衝突警報や車線逸脱警報、死角検出警報やヘッドアップディスプレイといった公道を走る際に役立つ装備も充実している。

HSV Gen-F GTSは、これまでのHSVやホールデンのモデルとは全く違ったタイプの車で、100,000ドルという価格設定は馬力や装備内容、それにこの車の先進性を考えればバーゲンプライスといえる。同等のパワーを持つ車をBMWやメルセデスで探せば、200,000ドルはくだらないだろう。

これだけの長さの試乗レポートをもってしても、この車の素晴らしさの全ては語りきれない。HSVは低価格でありながら、ヨーロッパの最上級セダンに対抗できる車を作り上げるという偉業を成し遂げた。


Review 2014 HSV GTS