インドの自動車メーカーにタタ・モーターズがあります。ジャガー・ランドローバーの親会社としても知られ、また格安車「ナノ」を発売したことでも有名です。

今回は、そんなタタが新しいデザイン言語を導入して満を持して作り上げたコンパクトハッチバック「ボルト」のインド「Top Gear」による試乗レポートを日本語で紹介します。


Bolt

タタ・モーターズの社屋はここ3ヶ月間祝福ムードに沸いていることだろう。販売台数は上昇し、ディーラーも大盛況だ。これもタタ・ゼストのおかげだ。このモデルは、2014年9月に生産が開始された。

ゼストは、全く新しいスタイリングで、最新の装備を備え、今時の技術をしっかりと使った車だ。このため、ゼストは市場にまさに強い関心(zest: 英語で関心の意)を持って迎えられた。そして、販売台数は強力な競合車種であるホンダ・アメイズすら追い越した。ただ、1つの製品だけでは会社を支えることはできない。SUVのタタ・サファリストームを始めとする他のモデルも多少は売れているが、タタを潤すには十分ではない。このため、タタはさらに市場を開拓していく必要がある。そしてこの車こそ、タタが開発に専念していた新型車――タタ・ボルトの登場だ。

まず最初に言っておくが、この車はゼストとプラットフォームを共有しており、デザインもそっくりだ。ただ、ゼストとボルトの2台には2つの大きな違いがある。1つは、セダンであるゼストとは違い、ハッチバックのボルトにはトランクがなく、代わりにハッチがある。そしてもう1つは、ゼストと違って競合するモデルが実に素晴らしい車だということだ。そしてのその競合車とは、スズキ・スイフトにヒュンダイ・グランドi10だ。では、ボルトにはこれらのライバルに勝る何かを持っているのだろうか。

デザインはそれなりにいい。存在感もあるし、安定感もあるし、ブラックアウトされたCピラーやプロジェクターヘッドランプやシャープなラインは、数あるハッチバックの中でも鋭い印象を与える。それに内装も十分だ。ピアノブラックのフィニッシャーが広範囲で使われているし、ダッシュボードはすっきりしており、現代的なメディアシステムが装備される。ダッシュボードをはじめ、室内に使われている材質の質感は相応のものだ。ダッシュボードに置いた物が悪路を走っただけですぐに落ちてしまうようなこともない。つまり、昔のタタとは違う、ということだ。

ここで、メディアシステムについて詳しく説明しよう。USB端子やAUX入力端子があり、Bluetooth接続もできる。また、専用のナビアプリをインストールしたAndroid端末とUSB接続すれば、ダッシュボードのディスプレイにナビ画面を表示することができる。ただ、忘れないで欲しいのは、Androidのスマートフォンにしか対応していないということだ。iPhoneやWindows Phoneは使えない。

interior

もし家族や兄弟が健康的な体型ならば、きっとボルトを気に入ることだろう。フロントシートは快適だし、リアシートもクラスの中ではトップクラスのスペースがある。悪くないでしょう?

ディーゼルエンジンには米国ロチェスター製の実績のあるクアドラジェットキャブレターが用いられており、それ以外の部分はフィアット・プントやスズキ・スイフト、タタ・ビスタのディーゼルエンジンと共通だ。ガソリンエンジンには新設計のターボエンジンである「Revotron」が採用されている。「Revotron」エンジンは4気筒1.2Lで、このエンジンはゼストに最初に搭載されており、最高出力90PS、最大トルク14.3kgf·mと十分な性能を発揮する。このエンジンはリニアな特性で、パワーの出方にむらがあったりもしないが、回転数を上げるとノイズが酷くなり、室内からでも荒っぽさが感じられる。ガソリンエンジンには5速MTが組み合わせられ、このトランスミッションはなめらかでシフトストロークが長すぎることもない。

ステアリングは結構良い。軽いステアリングは街中で実に扱いやすい。路面からのフィードバックはそれほどあるわけではないが、シティハッチバックにそれを望む人もさほどいないだろう。このステアリングは用途に適っている。

我らがインドの大企業であるタタはインドの道路状況が酷いということも、我々インド人の腰を守る乗り心地のいい車が必要とされることもしっかりと理解している。タタ・ビスタやタタ・インディカも乗り心地が良かったが、この車ではさらに良くなっている。凸凹を超えても、騒音や揺れをしっかりと抑えてくれる。

他のタタのモデルと同様、ライバル車に追い付くためには仕上がりの悪い部分がある。スピードを上げると同乗者と話すためには大声を出さないといけなくなる。95~100km/hくらいでも結構な風切り音が室内に侵入してくる。

タタが大きく宣伝しているのがこの車に装備されるマルチドライブシステムだ。シティ、エコ、スポーツの3モードを選択でき、運転環境や気分によってモードを変えることができる。これは悪いものではない。高価な高級車にしか付いていなかったようなものが国産ハッチバックにも付くのだから。問題は、モード選択のスイッチが光る以外、ほとんど何も変化がないということだ。どのモードを選択しても走りはほとんど変わらない。これはカタログに華を添えるためだけの装備と言えよう。

会社として、そして製品として、タタ・モーターズとボルトは成長し、正しい方向に向かっているように思われる。けれど、最初に心に浮かんだ疑問に立ち戻ってみよう。この車はスイフトやグランドi10に対抗できるのか、という疑問だ。実のところ、もうすぐそこというところまで来ている。ただ、乗り心地やハンドリング、緻密さといった部分で、これらのモデルに学ぶべきことはまだ残されている。

もうすぐそこという表現をしたのは、ほとんどの部分はしっかりとできているからだ。消費者が望むだけの製品にはなっている。ただ、最後のちょっとした仕上がりが足りない。そしてこの溝を埋めるのはお金だろう。

スイフトとグランドi10はいずれも44万インドルピーだが、2015年1月発売予定で価格がまだ発表されていないこの車は、スイフトやグランドi10よりも25,000~30,000ルピーは安い必要がある。いや、50,000ルピーや安ければなおいい。


Review: Tata Bolt