フォードのCセグメントハッチバックのフォーカスは、2.0Lの自然吸気エンジン搭載モデルのみが日本市場で販売されていますが、欧州を始め海外に目を向ければ他にも様々なエンジンが搭載されています。

今回は、フォーカスのハイエンドスポーツモデルで、250PSを発揮する2.0Lターボエンジン搭載モデルであるフォーカスSTについて、英国「Auto Express」による試乗レポートを日本語で紹介します。


FocusST


我々は既にフォーカスSTの試乗をしており、このモデルをとても気に入った。ただ、英国仕様の右ハンドルモデルに試乗する機会にはまだ恵まれておらず、今回初めて試乗した。

実のところ、この車の最初の印象はあまり良くはなかった。というのも、先代モデルでは、ライバルたちが総じて4気筒エンジンを搭載する中で5気筒エンジンを搭載するという独自性があったのだが、新型ではその独自性がなくなってしまった。

新型では、効率性向上のため、2.5Lエンジンに代わり、フォード・モンデオに搭載される2.0LターボののEcoBoostエンジンが搭載されている。

それに、市販FFモデルで最速を誇るルノースポール・メガーヌとは違い、フォーカスSTにはトルクステア減弱のためのインディペンデントステアリングアクシスジオメトリーやトラクション向上のためのLSDなどは装着されず、低コストな電子制御に頼っている。

また、外見にも問題がある。STは5ドアハッチバックとステーションワゴンの設定しかないホットハッチだ。それに、今のフォーカスのデザインは愛着が湧きでもしない限りいいとは思えないようなデザインで、大型の黒いフロントグリルやスポイラー類をつけたところで素晴らしい見た目になるわけでもない。試乗車に塗られていた745ポンドの特別塗装色のタンジェリンスクリームはどうかって? 見ればきっと『ムンクの叫び』のような顔になることだろう。

しかし、ひとたび車に乗り込めばこんなことはどうでもよくなる。快適なRECAROスポーツシートに身体を預ければ、車に抱かれてるかのような安心感が生まれる。そしてプッシュエンジンスターターを押し、アクセルを踏み込めば、これまで感じた問題なんて吹っ飛んでしまうことだろう。運転席に聞こえてくる4気筒エンジンのエンジンサウンドはかつての5気筒にも劣らない。それに、カタログ上の新型の環境性能は素晴らしい。

ただ、実際に乗ればカタログ燃費の16.7km/Lよりも悪い数字になることだろう。なぜなら、アクセルを踏み込みたくなるような元気の良さがこの車にはあるからだ。

加速性能は実に素晴らしいし、ラックアシスト式の電動パワーステアリングは応答性が高く、フィードバックも十分なので、強い加速時にいくらかトルクステアが発生してもそれほど気にならない。

また、メガーヌR.S. とは違ってトラクション確保のためのLSDは装備されていないが、それも問題ではない。メガーヌはコーナーをハードに速く駆け抜けることができるが、フォーカスSTにはメガーヌ以上の楽しさがある。

この楽しさの理由の1つはしなやかなサスペンションだ。これによって日常使用でも快適だし、舗装の悪い道で飛ばしてもまるで飛んでいるかのような感覚だ。そしてこの車の何よりの魅力は、ちょっとしたルーズさや楽しいドライブフィールだ。

この車から他の自動車メーカーが学ぶべきこともある。本当に素晴らしい現実世界のホットハッチとはどういう車なのか、ニュルブルクリンクでのラップタイムが全てではない、ということだ。


フォーカスSTは最速のホットハッチでもなければハンドリングが最高というわけでも、デザインが最高というわけでもない。けれど、そんなことは問題ではない。たくさんの人にとって、いつも運転する道で一番楽しい車がこれだ。それに必要最低限の装備はしっかりと揃っているベースグレードは22,000ポンド未満だ。フォーカスSTは最高のコストパフォーマンスの高性能車といえよう。


Ford Focus ST-3