米国GMが展開する高級ブランド「ビュイック」は現在日本での販売からは撤退していますが、アメリカ本国では未だに販売が続けられています。今回は、米国「AUTOWEEK」によるビュイックのフラッグシップセダン「ラクロス」の試乗レポートを日本語で紹介します。


LaCrosse

ビュイックのチーフエンジニアのジェフ・ヤンセンズは、2014年モデルのビュイック・ラクロスの紹介の際にこう言った。「この車は皆さんがこれまでに運転してきた車の中で最高の車でしょう、そう確信を持って言えます」と。

あの、ヤンセンズさん、我々Autoweekは様々な素晴らしい車に何度も乗ってきたんですが…。けれど、ヤンセンズ氏はこの車の落ち着き払った性格や快適性を根拠にこんなことを言ったようだ。そしてここから判断すると、ラクロスがかなり力を入れて開発されたことはほぼ間違いないだろう。

GMいわく、2014年モデルのラクロスは中身が一新しているという(エンジンフードのサイドにあるダクトも変更されており、ティアドロップや落ち葉の形に似たものとなっている―なんと詩的ではないか)。改良のテーマは「テクノロジー」だ。ラクロスには初めてアダプティブクルーズコントロールが装備され、キャデラック・ATSに装備されるバイブレーティングシートアラートシステムも装備される。2,125ドルの「ドライバーコンフィデンスI」パッケージには前方衝突警報やサイドブラインドゾーンアラート、レーンチェンジアラート、車線逸脱警報、リアクロストラフィックアラートが含まれ、全方位の障害物に対してうるさく警報を鳴らしてくれる。

内装デザインはリフレッシュされ、より魅力的になっている。以前はボタン類がごちゃごちゃ配されていたが、新型ではデュアルゾーンエアコンの操作系がタッチパネルとなってすっきりしている。リアのヘッドルームは十分で、シートは従来よりもソフトで、形状も良くなっている。ウルトララグジュアリーパッケージを装備するとタモの本木目インテリアとなり、シートは「サングリア」という名前のセミアニリン本革シートとなる。

interior

一方でパワートレインは2013年モデルからほとんど変更されていない。2.4Lの直4エンジンが引き続き搭載され、従来2.4Lモデルにオプション設定されていた「eAssist」マイルドハイブリッドシステムは4気筒モデル全車に搭載される。また、308PSを発揮するV6 3.6Lの直噴エンジンも引き続き設定され、いずれのエンジンにも6速ATが組み合わせられ、4WDとFFのいずれも選択できる。

ヤンセンズ氏はこうも自慢していた。「ラクロスは私の知るあらゆるキャデラック車よりも乗り心地がいいです、XTSよりもね」と。恐らく彼の言うことは正しいのだろう。彼はXTSの開発にも参加していたのだから。そしてこの車はシボレー・インパラと同様にGMのイプシロンIIプラットフォームを採用している。しかしこの車の「ラクロス」という車名はインパラとは違い、カナダのスラングでは性的な意味合いを持つが。ラクロスとはカナダのスラングで自慰のことを意味する。ただ、ビュイックはそんなことはもう気にしていないようだが。

今回我々が試乗したのは3.6Lモデルのみだが、FFと4WDのいずれにも試乗した。最初に試乗したFFモデルにはフロントサスペンションに欧州で開発された「HiPerStrut」というシステムが装備されており、これにより、トルクステアが軽減され、ステアリングがより正確になる、と謳われている。

実際のところは、そのうちの一方しか達成できていないようだ。FFモデルのステアリングは最初からダメダメだった。フィーリングに欠け、ダルで、本当に前輪に繋がっているのかと疑問に思うほどだった。一方でステアリングは308PSの加速にもびくともしなかったが、6速ATは街中でもぎくしゃくしており、それにも増してカリフォルニアのマリブからサウザンドオークスに向かうアップダウンのある道では酷かった。杜撰なトランスミッションのセッティングはビュイックがラクロスで目指したスムーズさを台無しにしてしまう。アクセルを踏んでもエンジンの回転はまともに上がらないし、なかなかシフトダウンもせず、全体的に反応が遅い。ワインディングロードでは4WDの方が操作性に優れており、ステアリングもより正確だった。ただ、こちらもステアリングが非常に重い。おそらくはスポーティさを演出したかったのだろうが。ただ、乗り心地はフロント、リアともにいい。

新型に新たに設定されたアダプティブクルーズコントロールはしっかり作動したのだが、片側複数車線の道路にはうまく対処できないようだった。減速したかと思えば40km/hまで加速し、第173空挺旅団戦闘団が敵襲に応戦している時よりもうるさい警報音が鳴り響く。

それでも静粛性は高い。110km/hで走行していて一番耳につくのは、私の時計の秒針が進む音や、時折後部座席に座るビュイックの広報担当が漏らす言葉だけだ。マツダのSKYACTIVのような名前のビュイックのQuietTuneには、二重窓や増量された遮音材が含まれている。もっともこれではSKYACTIVと違って会社をあげて名前を売っていけるような代物にはなりそうにないが。ただ、そうはいってもこれは静粛性の向上に一役買っている。

ただ、この車を検討する際に問題になるのは、静粛性以外の売りの無さだ。そして検討の際の問題を生み出しているのはそこら中にあるトヨタのディーラーだ。トヨタ・アバロンは静粛性ではラクロスに及ばないが、ステアリングも、ブレーキも、加速感も、どれをとってもラクロスより優れている。とはいえ、トヨタ・アバロンの方が操作性が優れているとは、時代も変わったものだ。

ビュイックは近年の販売の成功を誇っている。購買層の年齢が64歳から67歳まで7歳下がっていること、おしゃれな沿岸の街での販売が42%も増加していること、そして多くの販売が他のメーカーからの乗り換えだということをだ。そしてこの他のメーカーには、アバロンを販売するトヨタも含まれる。

これは素晴らしいことだ。けれど、ラクロスには何かが欠けている。静かで乗り心地がよく、腰抜けでスタイリングは保守的な(フロントグリルは従来よりも大きくなっているが、これもピカピカしたものが富の証だという考えに即している…例えば、ラスベガスのように)この車の核となるドライブトレインは冴えないものだ。これでは客を選ぶことだろう。結局、ビュイックはビュイックでしかないようだ。もしアバロンが陽気すぎると感じるなら、新型ラクロスの購入を検討してみたらどうだろうか。


2014 Buick LaCrosse drive review