北米では日本に先立って新型日産・ムラーノが発売されており、その試乗レポートは既に以前紹介しています。そんなムラーノですが、2代目モデルには北米仕様にオープンモデルのクロスカブリオレが設定されていました。

今回は、米国「Car and Driver」によるムラーノクロスカブリオレの試乗レポートを日本語で紹介します。


Murano CrossCabriolet


ルノーおよび日産のCEOであるカルロス・ゴーンはこう言った。「素晴らしい製品があれば自動車メーカーのあらゆる問題は解決できる」と。そして同時に、ヘンテコな形をした、ヘンテコなカブリオレSUVなるジャンルのムラーノクロスカブリオレの発売を公表した。

では、このムラーノクロスカブリオレで一体日産のどんな問題が解決できるのだろうか。全く思いつかない。北米日産の商品企画担当のラリー・ドミニクいわく、この車はブルーオーシャン戦略(未開拓市場を開拓していく戦略)に基づく車だというように、ムラーノクロスカブリオレは他にライバルがいない、空のスペースに位置するモデルだ。実際、この車に乗ってみて、ブルーオーシャンに残された最高のアイディアだと考える人もいるだろう。

ただ、誰もがそう考えるわけではない。ムラーノクロスカブリオレにはそれにふさわしいシチュエーションというものが必要な車だ。どういうことか、これから説明しよう。

カリフォルニア州マリブ北部の急カーブの続く山道はムラーノクロスカブリオレに合うシチュエーションではない。おそらく、日産がこの車の試乗ルートをサンタモニカ周辺にあらかじめ定めていたのも同様の理由によるものだろう。ただ、この車についてしっかりと理解するため、我々は試乗ルートを変え、回り道をして山道も走ってみた。

ウインドウにサイドシル沿いに、そしてフロアを横切るように、それにエンジンに、あちこちに補強が施され、ボディは重くなっている。通常のムラーノと比べると、およそ100kg重量が増加している。車重が増加することはいいことではないのだが、それでもあと50kg分くらい補強材を追加した方がいいと思う。というのも、試乗したモデル(ただこれは市販前のプロトタイプだが)は走行時に視認できるほどミラーやボンネットが振動しており、補強が十分だとは到底言えないからだ。

また、これだけの構造物が重心の高いこの車に装着された上、衝突安全性の確保のためにサスペンションが柔らかいものに変更されたため、ある程度不安定なのはもはやどうしようもない。車重の増加に加えてロールまで増加しているため、235/55R20サイズのタイヤに掛かる負荷は大きく増え、コーナーではまったくもって粘ってはくれない。びっくりするほどグリップが欠如している上、ボディの傾きは酷く、ステアリングは路面情報をほとんど伝えない(もっともこれは5ドアモデルにも言えることだが)ため、ワインディングロードでのこの車の楽しさは、大型トラックとアンフィカー(水陸両用車)の中間くらいだ。

ではムラーノクロスカブリオレに合うシチュエーションはどこかというと、海沿いの高速道路だ。緩いカーブしかないそんな道で80km/hで走れば実にフラットで、美しい景色、気持ちのいい潮風もあって、マリブからサンタモニカへの高速道路での旅程は実に快適だ。そこではまるでアラジンの魔法の絨毯にでも乗っているかのような乗り心地で、3.5L V6エンジンは海辺のレストランの駐車場からの合流に十分な加速をしてくれる。車好きならばもっと別のトランスミッションを望むだろうが、CVTはあらゆる状況でこの車をスムーズに加速させる。

interior

それに、室内も悪くない。フロントシートもリアシートも、レッグルーム、ショルダールーム、座面長いずれも十分にある。私は身長177cmだが、185cmのスタッフが運転席に座っていてもリアシートで十分くつろげたし、ヒップポイントが高いため、どの席からでも素晴らしい景色が楽しめる。ウインドディフレクターはオプション設定されていないが、風はあまり入ってくるようなこともなく、室内で会話をするのに困ることはなかった。

クローズ状態では、リアのヘッドルームは他の4シーターコンバーチブルとそれほど変わらない(ただし、一応同じSUVのコンバーチブルモデルであるジープ・ラングラーには到底及ばないが)。また、ソフトトップのリアウインドウの位置にはガラスパネルが埋め込まれているため、閉塞感もそれほどない。ただ、荷室スペースは狭く、クローズ状態で340L、オープン状態ではわずか227Lしかない。もっとも、これだけあればコンバーチブルとしては十分かもしれないが、通常のムラーノが566Lであることを考えると残念ではある。

装備について言えば、この車は満載だ。通常のムラーノの最上級グレードに相当する「LE」しか設定されず、ボイスコマンドカーナビゲーションやヒーター付レザーシート、BOSE 7スピーカー、バックカメラ、HIDヘッドランプなどが標準装備となる。しかも、通常のムラーノ「LE」よりも5,000ドル高い47,200ドルという値段はこの装備を考えても決して安いとはいえない。

では結局、誰がこの車を運転するのだろうか。金持ちの女性だろう。日産によると、ムラーノのオーナーの半数ちょっとは女性だという。そしてこのモデルに関しては60%が女性となると予想されている。これはボディカラーにも現れており、6色のうちの3色―グラシアパール、サンセットブロンズ、カリビアン(薄い青緑)―が女性向けだろう。そして男性諸君が選べるのはスーパーブラック、プラチナグラファイト、メルロの3色に限られる。

革新というものは、どんな企業にとっても、競争力を維持するために不可欠なものだ。そしてこの事実こそが、カルロス・ゴーンがこの車の開発にゴーサインを出した理由だろう。だが、革新することが目的になっていないだろうか。7つタイヤがついた車も、屋根にもう1つエンジンが乗っている車もこの世には存在しないのだ。カルロス・ゴーンのいう「素晴らしい製品」というのはこの車に当てはまるだろうか。確かに特定のシチュエーションではこの車は輝くだろうが、この車には妥協点が多すぎて素晴らしいと評するのはほとんど無理だろう。


2011 Nissan Murano CrossCabriolet First Drive