前回に引き続き、イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」の司会者の1人、ジェレミー・クラークソンが英「Driving.co.uk」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回は、ジャガーのフルサイズセダンであるXJのハイパフォーマンスモデル、XJRのレビューを紹介します。


XJR

毎年のように取材でイタリアに行くのだが、なかなか楽しい。イタリアは私に元気をくれる。楽しませてくれる。私はトマトが好きだ。ローマが好きだ。シエナが好きだ。そしてコモ湖を崇めている。イタリアにいると幸せな気分になれる。ただ、夏休みに行くのは決まって南フランスだ。

これにはいくつか理由がある。イタリアで休日を過ごすとなると、街に出てフレスコ画を見なければいけないような気分になる。一方、南フランスで休日を過ごせば、街に出てロゼワインを飲まなければいけないような気分になる。私はフレスコ画なんかよりもロゼワインの方がずっと好きだ。

今年は、プーチン大統領に対してEUが制裁を行ったため、今年の夏のうちにロシアの政治権力者たちがこぞってルーブル貨幣や巨大なボートをどこか他の場所に移した。このため、今年は特にサントロペがいつもよりもよかった。ビーチでSPEEDOの水着を見かけることも減ったし、腕時計屋に来る売春婦も少なくなっていた。

もう1つ、小さな変化があった。普段なら街の中心部にはイギリスのナンバーの付いた車が多いのだが、今年はほとんど見なかった。これはきっとフランスの落ち目の高速警察隊に押収されたからだろう。

これまで何度となく証明してきたように、南フランスに行くには飛行機や電車よりも車のほうが早い。ところがフランス人がスピードに関するユーモアセンスを失ったため、もはやこんなことは言えなくなってしまった。彼らはCIAも驚かせるような機械を使うようになり、また寛容さもなくしてしまった。そして車を止め、金を根こそぎむしり取り、免許も剥奪し、そして車まで奪う。

ただ、それも私にとっては嬉しい話だ。ロシア人やハンプシャーから出掛けてくる人がいないおかげで、カフェには空いた席ができてゆっくりワインを飲むことができる。それに、巨大なジャガー・XJRを駐車するスペースも見つけられる。

これ以上サントロペに似合わない車もない。漁村の狭い道を走るXJRは、入り江の狭い港にいる巨大なヨットのようだ。その光景は実に異様で、巨大なボディは景観を遮っていた。サントロペのマーケットの地下駐車場から出ようとするXJRは、まるでお腹いっぱいはちみつを食べたくまのプーさんがほら穴から出てくる姿のようだった。

ただし、サントロペへと向かう道中では全く違った。私は取り締まりの厳しいフランスの高速道路を避け、裏道を通ってイタリアのシエナからフランスへと向かった。想像してみよう。素晴らしく晴れた日に、シエナからサントロペに向かう道をスーパーチャージャー付きのジャガーで走ることを。羨ましい? 当然だ。

ヨーロッパのラジオ局は総じて囚人の拷問に使えそうなノイズしか流さないので、私はiPodをカーオーディオに繋げ、エアコンを21℃に設定してから、ジャガーの特徴的なノーズをコート・ダ・ジュール方面へと向けた。

ヨーロッパの街中でこの大きなジャガーを見ることは少ないが、販売台数も実際少なく、成功しているとは到底言えない。これには2つ理由があると思う。一つは、この車は見た目が悪いわけではないのだが、全くジャガーらしくないということだ。柔らかさ、上品さが足りない。可憐でもない。我々はジャガーにパイプタバコの似合う紳士の社交場を求めているのに、この車はまるでウォッカバーだ。悪くはないが、間違っている。

そしてもう一つ問題がある。かつて、ジャガーの最上級スポーツサルーンは道路上のどんな凹凸もものともしなかったが、このXJRは違う。イタリアのあるインターチェンジでは、この車は道路の継ぎ目部分で驚くほど跳ねてしまった。これはいただけない。もしジャガーがもっと車を売りたいと思うなら、衝撃を吸収して収束させるサスペンション技術を学び直す必要があるだろう。

もし許されるなら、道路の継ぎ目で車が跳ねてしまった時点ですぐ車を降りてBMW 7シリーズを買いに走っただろう。ただ、今回は目的地もあったし時間もそれほどなかったので、そうすることはかなわなかった。

私は3時間以内にニース空港へ子供たちを迎えに行かなければならなかった。ガソリンは満タンで、タバコは半箱残っており、私はサングラスをかけていた。空は明るく…と思ったら暗くなった。イタリア西海岸の高速道路にはたくさんのトンネルがあるのだ。

また、オービスもたくさん設置されている。ただ、シエナにいる友人が出発前日に「それは心配いらないさ。全部壊れているから。」と教えてくれた。私はイタリアのこういうところも大好きだ。警官がやって来ない限り、法律は自分の思いのままだ。イタリアの歩行者天国を走り抜けていく車の数を数えてみれば分かるだろう。

そして私は、ホイップクリームのような道にパワーを伝えていく大きなスーパーチャージャー付きのV8に耽り始めた。大仰さはなく、また、テールパイプから聞こえてくるわずかな轟音を抜きにすれば、スピードを出している感覚もない。

時折、イタリアのドライバーは、料金所でこの大きなジャガーを見つけると勝負を仕掛けてきた。そして全員が全員、ジャガーに負けた。もっとも、その理由は大半が小さなフィアットに乗っていたからなのだが。しかもディーゼルの。

どれくらいの時間でフランスの国境に到着したかは言うつもりがないが、運転を終えたとき、フットボール選手がスペルテストを受けさせられた時くらい汗だくだったとだけ言っておこう。制限速度は90km/hから130km/hになり、110km/hになり、まるで不注意な人を罠にかけようとでもしているようだったが、しかし私は不注意ではない。そしてロングドライブの末、ジャガーは実に素晴らしいクルーザーだということがわかった。

ニース空港に到着すると、ジャガーはちゃんと追加の荷物を積むことができた。まあそれは息子が2週間の旅行のためにTシャツ1枚とショーツ2枚しか持ってこなかったことが一番の理由なのだが。そして再び出発し、また90km/h、110km/h、130km/h、また90km/hと移り変わる制限速度を遵守して走っていった。

そしてサントロペの湾岸の短い航程をわずか6時間かけ、別荘に到着した。そして船上パーティーへと向かったのだが、パーティは朝の5時30分に終わっていた。先に述べたとおり、ジャガーは決して、決して、私を疲れさせることなどなかった。

ただ、実際のところ、このクラスの車であれば運転して疲れることなど普通はありえない。大きなBMWも大きなアウディも大きなメルセデスも揃って静かで速く、そのいずれにも万能の電子機器が搭載されており、室温を保ち、道路を探し、iPodに入っているジェネシスの曲を流してくれる。

ところが、ジャガーとくれば、路面の悪い場所では乗り心地がまともとは言えない。

これだけの理由で、私なら別の車を買うことだろう。


The Clarkson review: Jaguar XJR (2014)