今回も、イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」の司会者の1人、ジェレミー・クラークソンが英国「Driving.co.uk」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、彼によるBMW M4のレビューです。

よく、F1で培った技術やアイディアが、我々が普段運転している車の進歩に貢献しているという話を聞く。果たしてそうだろうか。では、あなたが運転している日産・ジュークのタイヤは40kmも走ったら使えなくなるだろうか。あなたのトヨタ・86はリアスポイラーが外れたらクラッシュするだろうか。あなたのアウディ・A3は高速道路の途中でピットインする必要があるだろうか。
ABSや雨滴感知式ワイパー、オートライト、シートベルトのリトラクター、セルモーターといった装備が車には付いている。しかしこのどれも、F1に由来するものではない。もしF1の技術が本当にロードカーにフィードバックされているのなら、ルノーやフェラーリやメルセデスがハイブリッドカーの最前線を行っているはずだ。もちろん、そんなことはない。
ハイブリッド技術の最前線に立つメーカーはF1とは何の関わりもないBMWだろう。i3はなかなか面白い車だし、私が今年運転するのを最も楽しみにしているi8は多くの人がポルシェ・911にも対抗できる車だと口を揃えて言っている。それも57.2km/Lという燃費でありながら、だ。
私が心配しているのは、他のすべての企業がそうであるように、BMWの人材も限りがあるということだ。もしBMWの中でも最高の人材が揃ってハイブリッドカーの開発に参加しているのだとすれば、BMW M4は2軍が作った車ということになる。では、この車はその程度の車なのだろうか。
最初に私がこの車を見た時、少し気分が悪くなってしまった。というのも、車の色がかなり不愉快なものだったのだ。BMWはこの色をオースチンイエローと呼称しているが、ベイビー・ダイアリア(赤ちゃんの下痢)という名前のほうが適しているのではないだろうか。
これほど酷い色の車をテストするのは難しい。犬の気持ちを理解しろと言われているようだ。しかもこれ以外のボディカラーもいい色だとはいえない。黒を選ぶのが最善だと思う。
黒を選べばもう1ついいことがある。ボディカラーが黒ならば、デザイナーが眠気に耐えて朦朧としながら設計したようなデザインがそれほど目立たない。この車は飾りだらけでやかましい。特にドアミラーがそうだ。恐らく、BMWは2ドアのM4クーペをM3セダンよりも目立たせるためにこんなことをしたのだろうが、果たしてそんなことをする必要はあったのだろうか。
とはいえ、私はこのデザインや色のことを切り離して、車自体に集中することにした。この車はM3クーペと呼ばれた車の後継車だ。その車には素晴らしいV8エンジンが搭載されており、回転を上げるにつれて唸り声を上げ、レッドゾーンに近づくとまるでSMの絶頂時のように咆哮した。
一方、M4には直6ターボが搭載されている。ターボだって? Mに? それはまるでアイスクリームに肉汁が混ぜ込まれているような話だ。ただ、ターボや電動パワーステアリングはEUの排気量規制に適合するためには必要な物なのだ。世界の終わりと絶望する事なかれ、というのも、このエンジンは古いV8よりもパワフルでトルクバンドも広い。一方でV8の咆哮は失われ、スロットルレスポンスは少し鈍くなった。また、パドルシフトで変速する7速DCTもよろしくない。クリープがなく、普通のAT車と違ってアクセルを踏まなければ車は進み始めないのだ。お陰で駐車は悪夢のような大変さだった。
トランスミッションといえば、エンジンを切ろうとしたらブザーとともにギアをPに入れろというメッセージが延々と流れてきた。だが、一見してPなんてどこにもない。この問題を解決するためには、うるさい音を聞きながらギアレバーをあっちこっち動かしてみる必要があった。
要約すると、色は酷く、見た目は派手派手しく、ドアミラーは目障りで、トランスミッションには欠点があり、エンジンは退化し、駐車は面倒だ。ここまででは、BMWの2軍は従来モデルを超える車を作ることができなかったように思えるのだが、これにはまだ続きがある。
M4は重い車ではない。プラスティックやカーボンファイバーが軽量化のために多く用いられ、それによって同時に燃費も向上している。ところが、運転してみるとこの車はフットボールスタジアムより重いのではないかと感じる。ステアリングは重いし、道にバンプがあると押し潰されたような感じになる。
ただ、いい所もある。この車はとても使いやすい。操作系は息をするようにたやすく扱えるし、シートも素晴らしい。ヘッドアップディスプレイに表示されたリストで私のiPodの音楽を選択できるのも気に入った。そして重要な事を忘れていた。運転するのがとても楽しいのだ。
エンジンは従来のV8とは性格が違うが、V8の盛り上がっていくパワーの代わりにターボの圧倒的なトルクの山を感じれば、この車にはちゃんと欲していた魅力があるということに気付くだろう。意のままに後輪をコントロールすることもできる。ごく僅かな足の動きが即座に車の動きに影響し、そしてステアリングにも同様なことが言える。
ディファレンシャルもブレーキも素晴らしく、ABSは正確で、バリトンの大音量がエンジンから聞こえてくる。
そしてこの車は速い。スポーツプラスモードにしてアクセルを踏み込むと、激怒した鮫のように走り出す。ここ何ヶ月間、M4ほど楽しく運転できた車はなかった。
かつて、M3は成金が乗り回していた。その車がどんな車なのかもよく知らずに、見栄えがいいからという理由だけでだ。オークリーのサングラス同様、ただのアクセサリーだった。
今、そういった人々は大概が速いアウディに乗っており、そうでなくともAMGに乗っている。つまり、M3やM4は再び、本当に良い車を欲しがる人によって買われるようになったのだ。
ただ、是非ともBMWの1軍にこの車のデザインをお願いしたい。そうすればドアミラーももうちょっとまともになるだろうし、見ていて気分が悪くなるような色を塗ったりもしないだろう。
The Clarkson review: BMW M4 (2014)
今回紹介するのは、彼によるBMW M4のレビューです。

よく、F1で培った技術やアイディアが、我々が普段運転している車の進歩に貢献しているという話を聞く。果たしてそうだろうか。では、あなたが運転している日産・ジュークのタイヤは40kmも走ったら使えなくなるだろうか。あなたのトヨタ・86はリアスポイラーが外れたらクラッシュするだろうか。あなたのアウディ・A3は高速道路の途中でピットインする必要があるだろうか。
ABSや雨滴感知式ワイパー、オートライト、シートベルトのリトラクター、セルモーターといった装備が車には付いている。しかしこのどれも、F1に由来するものではない。もしF1の技術が本当にロードカーにフィードバックされているのなら、ルノーやフェラーリやメルセデスがハイブリッドカーの最前線を行っているはずだ。もちろん、そんなことはない。
ハイブリッド技術の最前線に立つメーカーはF1とは何の関わりもないBMWだろう。i3はなかなか面白い車だし、私が今年運転するのを最も楽しみにしているi8は多くの人がポルシェ・911にも対抗できる車だと口を揃えて言っている。それも57.2km/Lという燃費でありながら、だ。
私が心配しているのは、他のすべての企業がそうであるように、BMWの人材も限りがあるということだ。もしBMWの中でも最高の人材が揃ってハイブリッドカーの開発に参加しているのだとすれば、BMW M4は2軍が作った車ということになる。では、この車はその程度の車なのだろうか。
最初に私がこの車を見た時、少し気分が悪くなってしまった。というのも、車の色がかなり不愉快なものだったのだ。BMWはこの色をオースチンイエローと呼称しているが、ベイビー・ダイアリア(赤ちゃんの下痢)という名前のほうが適しているのではないだろうか。
これほど酷い色の車をテストするのは難しい。犬の気持ちを理解しろと言われているようだ。しかもこれ以外のボディカラーもいい色だとはいえない。黒を選ぶのが最善だと思う。
黒を選べばもう1ついいことがある。ボディカラーが黒ならば、デザイナーが眠気に耐えて朦朧としながら設計したようなデザインがそれほど目立たない。この車は飾りだらけでやかましい。特にドアミラーがそうだ。恐らく、BMWは2ドアのM4クーペをM3セダンよりも目立たせるためにこんなことをしたのだろうが、果たしてそんなことをする必要はあったのだろうか。
とはいえ、私はこのデザインや色のことを切り離して、車自体に集中することにした。この車はM3クーペと呼ばれた車の後継車だ。その車には素晴らしいV8エンジンが搭載されており、回転を上げるにつれて唸り声を上げ、レッドゾーンに近づくとまるでSMの絶頂時のように咆哮した。
一方、M4には直6ターボが搭載されている。ターボだって? Mに? それはまるでアイスクリームに肉汁が混ぜ込まれているような話だ。ただ、ターボや電動パワーステアリングはEUの排気量規制に適合するためには必要な物なのだ。世界の終わりと絶望する事なかれ、というのも、このエンジンは古いV8よりもパワフルでトルクバンドも広い。一方でV8の咆哮は失われ、スロットルレスポンスは少し鈍くなった。また、パドルシフトで変速する7速DCTもよろしくない。クリープがなく、普通のAT車と違ってアクセルを踏まなければ車は進み始めないのだ。お陰で駐車は悪夢のような大変さだった。
トランスミッションといえば、エンジンを切ろうとしたらブザーとともにギアをPに入れろというメッセージが延々と流れてきた。だが、一見してPなんてどこにもない。この問題を解決するためには、うるさい音を聞きながらギアレバーをあっちこっち動かしてみる必要があった。
要約すると、色は酷く、見た目は派手派手しく、ドアミラーは目障りで、トランスミッションには欠点があり、エンジンは退化し、駐車は面倒だ。ここまででは、BMWの2軍は従来モデルを超える車を作ることができなかったように思えるのだが、これにはまだ続きがある。
M4は重い車ではない。プラスティックやカーボンファイバーが軽量化のために多く用いられ、それによって同時に燃費も向上している。ところが、運転してみるとこの車はフットボールスタジアムより重いのではないかと感じる。ステアリングは重いし、道にバンプがあると押し潰されたような感じになる。
ただ、いい所もある。この車はとても使いやすい。操作系は息をするようにたやすく扱えるし、シートも素晴らしい。ヘッドアップディスプレイに表示されたリストで私のiPodの音楽を選択できるのも気に入った。そして重要な事を忘れていた。運転するのがとても楽しいのだ。
エンジンは従来のV8とは性格が違うが、V8の盛り上がっていくパワーの代わりにターボの圧倒的なトルクの山を感じれば、この車にはちゃんと欲していた魅力があるということに気付くだろう。意のままに後輪をコントロールすることもできる。ごく僅かな足の動きが即座に車の動きに影響し、そしてステアリングにも同様なことが言える。
ディファレンシャルもブレーキも素晴らしく、ABSは正確で、バリトンの大音量がエンジンから聞こえてくる。
そしてこの車は速い。スポーツプラスモードにしてアクセルを踏み込むと、激怒した鮫のように走り出す。ここ何ヶ月間、M4ほど楽しく運転できた車はなかった。
かつて、M3は成金が乗り回していた。その車がどんな車なのかもよく知らずに、見栄えがいいからという理由だけでだ。オークリーのサングラス同様、ただのアクセサリーだった。
今、そういった人々は大概が速いアウディに乗っており、そうでなくともAMGに乗っている。つまり、M3やM4は再び、本当に良い車を欲しがる人によって買われるようになったのだ。
ただ、是非ともBMWの1軍にこの車のデザインをお願いしたい。そうすればドアミラーももうちょっとまともになるだろうし、見ていて気分が悪くなるような色を塗ったりもしないだろう。
The Clarkson review: BMW M4 (2014)
最新型のM3はどうもデジタルでアナログさの残っていた先代E92または90のM3に魅了を感じています。どちらかのM3の試乗記があれば読んでみたいです。よろしくお願いいたします。