北米において、トヨタは若者向けのブランド「サイオン」を展開しています。そのブランドでは、日本市場でも販売されている86(FR-S)、iQ、カローラルミオン(xB)、ist(xD)のほかに、北米専売のコンパクトFFクーペの「tC」というモデルを販売しています。
今回は、米国「Cars.com」によるコンパクトクーペ、サイオン・tCの試乗レポートを日本語で紹介します。

※左上は前期型モデル
2代目サイオン・tCは2010年10月に発表されたが、スポーツカーとしてあまりできのよいものではなく、2014年のモデルサイクル中期に行われたマイナーチェンジに期待されたが、それもあくまで外面的な改良でしかなかった。
新しいtCは金額を考えれば十分ともいえるが、多くの欠点を残しているし、もっといい別の車もある。
前輪駆動で5シーターのtCは装備が充実した単一グレード構成で、輸送量も含めて車両価格は20,000ドルとなるが、「Monogram Series」や記念限定モデルの「10 Series」といった特別仕様車も存在し、それらには追加装備が存在する。エンジンには4気筒2.5Lが搭載され、6速MTが標準となる。6速AT仕様や様々なアクセサリーもオプションで設定される。
今回試乗したモデルはオプション込みで25,000ドルであった。
エクステリア
2代目tCの特徴として、ルーフラインが平坦なことが挙げられるが、これは室内空間の確保に寄与している。ただ、これはあまりスポーティなデザインとはいえない。マイナーチェンジにより行われたフェイスリフトでよりクーペ的になってはいるが、それでもヒュンダイ・エラントラクーペのスポーティさには及ばない。横長のフロントグリルはサイオンの姉妹ブランドであるトヨタの最新型アバロンを想起させるが、アバロンの方がヘッドランプは精悍な印象を受ける。一方、リアにはサイオンいわくFR-S(日本名: 86)をイメージしたというテールランプやグレーのガーニッシュが装着された。個人的な好みを言えば、前期型のフロントバンパーの方が好みだ。
アルミホイールは、18インチが標準装備で、19インチがオプションで設定される。
ドライビングインプレッション
181PSという控えめな出力はそれほど馬鹿にしたものではない。23.8kgf·mのトルクはどの回転数でもフラットであると感じた。これにより、1速や2速でフル加速しても十分なパワーがフロントタイヤに伝わり、気分よく運転することができる。ただ、3,000rpmほどになると回転が少し鈍くなってしまう。これは直噴エンジンを搭載するFR-Sがこのあたりの回転数でスムーズなのとは対照的だ。ただ、全体的な元気さは2.4LのシビックSiクーペと同等だ。パワーが欲しければ、もう少し金を積んでV6のフォード・マスタングやシボレー・カマロを買えば、もっと刺激を得ることができる。ただ、同じく4気筒のシビッククーペやキア・フォルテクープ、ヒュンダイ・エラントラクーペと比べれば、tCも十分パワフルな部類に入る。
ただ、ガソリン代は高くつきそうだ。ATでもMTでも、シティ燃費、ハイウェイ燃費、複合燃費はそれぞれ9.8km/L, 13.2km/L, 11.1km/Lだ。エラントラやシビック、フォルテはいずれもtCより0.5 - 2km/Lほど燃費が優れている。
今回試乗したモデルはMT車ながら、オプションのショートストロークシフターはついていなかった。 優秀なショートストロークシフターとは異なり、シフトストロークは長かったが、ストロークは均一にとられていた。1速から2速への変速はいい具合にできるし、それ以降も同様だ。4速は高速走行に適しているが、6速でも十分にパワーがあった。アクセルレスポンスもよく、シフトダウン時にはうまく回転を合わせることができる。ただ、運転がうまい人にとっては回転の変化が少し鈍いと感じるかもしれない。
ステアリングはマイナーチェンジで改良されており、コーナーでは落ち着いてしっかりと曲がることができた。ほとんど意図した通りに車を操ることができる。ただ、タイトコーナーではさすがにFFらしいアンダーステアを露見してしまう。それでもリアはすぐに追従して、四輪ドリフトをすることもできる。リアには一般的なコンパクトカーが用いるトーションビーム式のサスペンションではなく、ダブルウィッシュボーン式のサスペンションが奢られており、これによって運転する楽しさを削がない程度の適度なロールを許容することができるというメリットがあるはずだ。スタビリティコントロールは最低限の介入しかしない楽しさ優先のセッティングとなっている。
試乗車にはオプションのストラットタワーバーが装備されていなかったが、あればきっともっとコーナリング性能が高まることだろう。サイオンによると、マイナーチェンジではサスペンションとシャシの剛性が高められているという。試乗車はP235/35R19というサイズのオールシーズンタイヤを履いていたにもかかわらず、マンホールなどのちょっとした凸凹はしっかりといなしていた。高速道路では車格を考えれば安定していたが、道路にちょっとしたアップダウンがある場所ではボーイング737で雷雨にでも飛び込んだかのように暴れてしまった。この暴れ方は前期型モデルの不安定な挙動を思い出させた。その頃のtCは飛んだり跳ねたりと随分な酷さで、舗装の悪い道路は絶対に走りたくないと思わせるものだった。
内装

tCの内装は2代目にモデルチェンジした際に随分と安っぽくなってしまっていたので、今回のマイナーチェンジでは初代の頃の内装くらいには戻って欲しいと思っていたが、それは叶わぬ願いだった。内装の材質はどこを見ても酷く、窓周りのプラスチックパーツからドアハンドルから、まさしく安物という感じだ。天井の素材も安っぽく、パノラミックガラスルーフも装備されてはいるのだが、そのサンシェードはどこかの中古品店から引っぱってきたような布にしか見えない。ダッシュボードとグローブボックスの間には一見して分かるような大きな隙間があるし、エアコンの操作部はガタガタだ。時代遅れの赤いメーターは昼間の視認性が不十分で、特に太陽が真上にあるときは陰で全く見えなくなってしまう。
背の高いドライバーにとっては、シートの可動域が狭すぎる。身長180cmの私で、シートを一番後ろにしてギリギリ快適に運転できた。シート自体はクッション性もあり、サイドサポートも付いているが、調節レバーは安っぽく、操作しているうちに壊れてしまいそうだった。実に、実に、実に、チープなのだ。
Aピラーは視界の妨げになり、これが原因で購入の検討をやめてしまう人もいるだろう。また、リアウインドウの形状が雨を留めやすくしているようだが、雨天時に視界を確保するために必要なリアワイパーは装備できない。 ただ、このボディ形状によりリアシートは広い。レッグルームは下手なコンパクトセダンよりも広いし、ヘッドルームも十分にある。リアシートは6:4分割でわずかながらもリクライニング可能で、リアシートに乗り込む際に運転席を前に倒した後、自動的に運転席を元の状態まで戻す機能も付いている。ただ、なぜか助手席にはその機能がない。
純正装備される6.1インチのタッチスクリーンにはHDラジオやBluetoothハンズフリーフォンが装備されており、USB機器やiPodと接続ができる。 オプションのナビゲーションシステムには、専用プレミアムオーディオシステムやインターネットラジオ、SNSアプリなどが付随している。
荷室
リアシートをフォールドダウンすると、フルフラットな十分な荷室スペースが現れる。サイオンによるとリアシートの後ろには416Lの荷室スペースがあるというが、これはあまり正確性のない方法で測定されたようで、我々で測ってみたところ、フォルクスワーゲン・ゴルフやヒュンダイ・ヴェロスターと同等の430Lはありそうだ。ただ、シビッククーペやエラントラクーペ、フォルテクーペと比べてどれほどかということまではわからない。
安全性
IIHSのスモールオーバーラップテストでは優、良、可、不可の4段階評価で良をとり、IIHSのそれ以外のテストでは優の評価を得たため、tCはIIHSのトップセーフティピックに選ばれている。エアバッグやスタビリティコントロールのほかには、近年トヨタ車を含めコンパクトカーでも装備され始めている衝突警報や車線逸脱警報などの特別な安全装備は設定されない。 また、ライバル車のほとんどは装備しており、シビックには標準装備されるバックカメラも装備されない。
比較
4気筒の大排気量エンジンを載せ、パノラミックガラスルーフが装備されており、 18インチのホイールが装着され、20歳未満で3年間の無料点検がついた車が欲しければ、まさにこれがぴったりだ。同じくらいの値段でシビッククーペやエラントラクーペ、フォルテクーペも購入できる。これらのモデルは全てtCに燃費性能や内装の品質で勝っているが、それ以外の面ではtCに勝るものはない。
しかし、価格表を見れば、選択肢は他にもたくさんある。オプションを満載すればヒュンダイ・ジェネシスクーペやアメリカのマッスルカー勢とも競合する値段になるし、それらを選んだ方が賢明だ。tCは安価なスポーツクーペを求める消費者に最適な車だ。ただ、それ以外の人にとってはあまり魅力的な車とはいえない。多くの人にとっては、もっと別の車のほうがいいだろう。
Scion tC Review
今回は、米国「Cars.com」によるコンパクトクーペ、サイオン・tCの試乗レポートを日本語で紹介します。

※左上は前期型モデル
2代目サイオン・tCは2010年10月に発表されたが、スポーツカーとしてあまりできのよいものではなく、2014年のモデルサイクル中期に行われたマイナーチェンジに期待されたが、それもあくまで外面的な改良でしかなかった。
新しいtCは金額を考えれば十分ともいえるが、多くの欠点を残しているし、もっといい別の車もある。
前輪駆動で5シーターのtCは装備が充実した単一グレード構成で、輸送量も含めて車両価格は20,000ドルとなるが、「Monogram Series」や記念限定モデルの「10 Series」といった特別仕様車も存在し、それらには追加装備が存在する。エンジンには4気筒2.5Lが搭載され、6速MTが標準となる。6速AT仕様や様々なアクセサリーもオプションで設定される。
今回試乗したモデルはオプション込みで25,000ドルであった。
エクステリア
2代目tCの特徴として、ルーフラインが平坦なことが挙げられるが、これは室内空間の確保に寄与している。ただ、これはあまりスポーティなデザインとはいえない。マイナーチェンジにより行われたフェイスリフトでよりクーペ的になってはいるが、それでもヒュンダイ・エラントラクーペのスポーティさには及ばない。横長のフロントグリルはサイオンの姉妹ブランドであるトヨタの最新型アバロンを想起させるが、アバロンの方がヘッドランプは精悍な印象を受ける。一方、リアにはサイオンいわくFR-S(日本名: 86)をイメージしたというテールランプやグレーのガーニッシュが装着された。個人的な好みを言えば、前期型のフロントバンパーの方が好みだ。
アルミホイールは、18インチが標準装備で、19インチがオプションで設定される。
ドライビングインプレッション
181PSという控えめな出力はそれほど馬鹿にしたものではない。23.8kgf·mのトルクはどの回転数でもフラットであると感じた。これにより、1速や2速でフル加速しても十分なパワーがフロントタイヤに伝わり、気分よく運転することができる。ただ、3,000rpmほどになると回転が少し鈍くなってしまう。これは直噴エンジンを搭載するFR-Sがこのあたりの回転数でスムーズなのとは対照的だ。ただ、全体的な元気さは2.4LのシビックSiクーペと同等だ。パワーが欲しければ、もう少し金を積んでV6のフォード・マスタングやシボレー・カマロを買えば、もっと刺激を得ることができる。ただ、同じく4気筒のシビッククーペやキア・フォルテクープ、ヒュンダイ・エラントラクーペと比べれば、tCも十分パワフルな部類に入る。
ただ、ガソリン代は高くつきそうだ。ATでもMTでも、シティ燃費、ハイウェイ燃費、複合燃費はそれぞれ9.8km/L, 13.2km/L, 11.1km/Lだ。エラントラやシビック、フォルテはいずれもtCより0.5 - 2km/Lほど燃費が優れている。
今回試乗したモデルはMT車ながら、オプションのショートストロークシフターはついていなかった。 優秀なショートストロークシフターとは異なり、シフトストロークは長かったが、ストロークは均一にとられていた。1速から2速への変速はいい具合にできるし、それ以降も同様だ。4速は高速走行に適しているが、6速でも十分にパワーがあった。アクセルレスポンスもよく、シフトダウン時にはうまく回転を合わせることができる。ただ、運転がうまい人にとっては回転の変化が少し鈍いと感じるかもしれない。
ステアリングはマイナーチェンジで改良されており、コーナーでは落ち着いてしっかりと曲がることができた。ほとんど意図した通りに車を操ることができる。ただ、タイトコーナーではさすがにFFらしいアンダーステアを露見してしまう。それでもリアはすぐに追従して、四輪ドリフトをすることもできる。リアには一般的なコンパクトカーが用いるトーションビーム式のサスペンションではなく、ダブルウィッシュボーン式のサスペンションが奢られており、これによって運転する楽しさを削がない程度の適度なロールを許容することができるというメリットがあるはずだ。スタビリティコントロールは最低限の介入しかしない楽しさ優先のセッティングとなっている。
試乗車にはオプションのストラットタワーバーが装備されていなかったが、あればきっともっとコーナリング性能が高まることだろう。サイオンによると、マイナーチェンジではサスペンションとシャシの剛性が高められているという。試乗車はP235/35R19というサイズのオールシーズンタイヤを履いていたにもかかわらず、マンホールなどのちょっとした凸凹はしっかりといなしていた。高速道路では車格を考えれば安定していたが、道路にちょっとしたアップダウンがある場所ではボーイング737で雷雨にでも飛び込んだかのように暴れてしまった。この暴れ方は前期型モデルの不安定な挙動を思い出させた。その頃のtCは飛んだり跳ねたりと随分な酷さで、舗装の悪い道路は絶対に走りたくないと思わせるものだった。
内装

tCの内装は2代目にモデルチェンジした際に随分と安っぽくなってしまっていたので、今回のマイナーチェンジでは初代の頃の内装くらいには戻って欲しいと思っていたが、それは叶わぬ願いだった。内装の材質はどこを見ても酷く、窓周りのプラスチックパーツからドアハンドルから、まさしく安物という感じだ。天井の素材も安っぽく、パノラミックガラスルーフも装備されてはいるのだが、そのサンシェードはどこかの中古品店から引っぱってきたような布にしか見えない。ダッシュボードとグローブボックスの間には一見して分かるような大きな隙間があるし、エアコンの操作部はガタガタだ。時代遅れの赤いメーターは昼間の視認性が不十分で、特に太陽が真上にあるときは陰で全く見えなくなってしまう。
背の高いドライバーにとっては、シートの可動域が狭すぎる。身長180cmの私で、シートを一番後ろにしてギリギリ快適に運転できた。シート自体はクッション性もあり、サイドサポートも付いているが、調節レバーは安っぽく、操作しているうちに壊れてしまいそうだった。実に、実に、実に、チープなのだ。
Aピラーは視界の妨げになり、これが原因で購入の検討をやめてしまう人もいるだろう。また、リアウインドウの形状が雨を留めやすくしているようだが、雨天時に視界を確保するために必要なリアワイパーは装備できない。 ただ、このボディ形状によりリアシートは広い。レッグルームは下手なコンパクトセダンよりも広いし、ヘッドルームも十分にある。リアシートは6:4分割でわずかながらもリクライニング可能で、リアシートに乗り込む際に運転席を前に倒した後、自動的に運転席を元の状態まで戻す機能も付いている。ただ、なぜか助手席にはその機能がない。
純正装備される6.1インチのタッチスクリーンにはHDラジオやBluetoothハンズフリーフォンが装備されており、USB機器やiPodと接続ができる。 オプションのナビゲーションシステムには、専用プレミアムオーディオシステムやインターネットラジオ、SNSアプリなどが付随している。
荷室
リアシートをフォールドダウンすると、フルフラットな十分な荷室スペースが現れる。サイオンによるとリアシートの後ろには416Lの荷室スペースがあるというが、これはあまり正確性のない方法で測定されたようで、我々で測ってみたところ、フォルクスワーゲン・ゴルフやヒュンダイ・ヴェロスターと同等の430Lはありそうだ。ただ、シビッククーペやエラントラクーペ、フォルテクーペと比べてどれほどかということまではわからない。
安全性
IIHSのスモールオーバーラップテストでは優、良、可、不可の4段階評価で良をとり、IIHSのそれ以外のテストでは優の評価を得たため、tCはIIHSのトップセーフティピックに選ばれている。エアバッグやスタビリティコントロールのほかには、近年トヨタ車を含めコンパクトカーでも装備され始めている衝突警報や車線逸脱警報などの特別な安全装備は設定されない。 また、ライバル車のほとんどは装備しており、シビックには標準装備されるバックカメラも装備されない。
比較
4気筒の大排気量エンジンを載せ、パノラミックガラスルーフが装備されており、 18インチのホイールが装着され、20歳未満で3年間の無料点検がついた車が欲しければ、まさにこれがぴったりだ。同じくらいの値段でシビッククーペやエラントラクーペ、フォルテクーペも購入できる。これらのモデルは全てtCに燃費性能や内装の品質で勝っているが、それ以外の面ではtCに勝るものはない。
しかし、価格表を見れば、選択肢は他にもたくさんある。オプションを満載すればヒュンダイ・ジェネシスクーペやアメリカのマッスルカー勢とも競合する値段になるし、それらを選んだ方が賢明だ。tCは安価なスポーツクーペを求める消費者に最適な車だ。ただ、それ以外の人にとってはあまり魅力的な車とはいえない。多くの人にとっては、もっと別の車のほうがいいだろう。
Scion tC Review