日本名はスカイラインとして知られる、日産の高級車ブランド「インフィニティ」が日本国外で販売する高級セダンが「インフィニティ・Q50」です。このQ50に日産GT-Rに搭載されるVR38DETT型エンジンを搭載したハイパフォーマンスモデルのコンセプトカーがQ50オールージュです。
もともと、メルセデス・ベンツのAMGや、BMWのM、アウディのRSなどに対抗するようなモデルを持たなかったインフィニティですが、一方で同じ日本の高級車ブランドのレクサスは「F」と呼ばれるハイパフォーマンスシリーズをインフィニティに先んじて投入しました。走りのイメージが重要視される高級車ブランドで、ハイパフォーマンスモデルの存在はブランドイメージに大きく寄与するでしょうし、インフィニティもQ50の市販化に意欲的なようです。
それではここで、アメリカの「Car and Driver」によるQ50オールージュの試乗レポートを日本語でご紹介しましょう。
「素直な感想を聞かせてくださいね」―私に世界にただ1台のQ50オールージュプロトタイプを貸したインフィニティの担当者はそう言った。こんなことを言われれば、自動車評論家としてやる気が出てくる。だって私の意見がこの車の完成に何らかの影響を与えるかもしれないのだから。私は日産車であれば、たとえそれがフォークリフトであってもGT-Rのエンジンを載せることに賛成だ。私は担当者にこの4ドアのGT-Rを是非市販して欲しいと言った。
英国のテストコースで私は、Q50にGT-Rのエンジンを載せるのは、そんじょそこらのエンジンを載せるのとは違いとても困難だということを知った。V6ツインターボエンジン自体はボンネットに上手く収まってはいるが、それ以外は「エンジニアリングの悪夢」のようである。GT-Rは一見して分かる通りQ50よりもボンネットが長く、そのためQ50はVR38エンジンを搭載するにあたり、560馬力のツインターボエンジンを冷却するに足るようにボディ前部の設計を新しく起こした。最初私がこの車を見た時は、フロントグリルの裏側に覆面パトカーのように赤色灯でも組み込まれているのではないのかと感じた。実際は、私が赤色灯だと思ったのはフロントグリルのすぐ後ろに組み込まれたインタークーラーだった。
パワートレインの設計はとても挑戦的だ。V8エンジンを搭載するQ70(日本名: フーガ)用の7速トルコンATがトランスミッションとして採用され、4WDシステムもQ70用のものが用いられている。変速はパドルシフトで行うことができるが、変速スピードはそれほど速くなく、テストコースのコーナーではどこかぎくしゃくする場面も見られた。
最近まではこのプロトタイプにはインフィニティのステアバイワイヤシステムが装着されていたが、試乗時には検討のために電動パワーステアリングに交換されていた。そのため、メーターパネルにはステアリングの警告灯が点きっぱなしだったが、プロトタイプなら多少警告灯が点いていることなど普通のことである。
インフィニティは通常のオープンデフでは560馬力を支えきれないと結論づけ、この車には専用設計のリアリミテッドスリップデフが装着されていた。舗装の悪いあるコーナーでは、内側のリアタイヤの挙動に違和感を感じた。ひょっとしたらデフが作動しなかったのかもしれないが、それについて問うたところ、インフィニティはそのような挙動は他では確認していないと回答した。
このモデルに装着されている調節可能なサスペンションは市販するにあたってもそのままであってほしいと言いたい。このサスペンションは追従性においても安定性においても高い次元でバランスされており、4ドアモデルにふさわしい仕上がりとなっている。どんなにこの車が直線で速かったところで、セダンユーザーはGT-Rのような振動があればこの車を欲しがったりはしないだろうから。
テストトラックはおよそ4.8kmにわたり、このコースは運転を楽しむためでなく、あくまでも車の弱点を見つけ出すために作られたハードなコースである。例えば、ジャガーがコーナーを外れて木に突っ込んだ「ジャガー・コーナー」や、「スキージャンプ」と呼ばれるジャンピングセクションなどがある。そんなコースで、Q50を試乗しよう。
運転席からGT-Rと同じようなベントを持つエンジンフードを見れば、自分が運転しているのがインフィニティのセダンではなく、日産のスーパーカーだと自分をごまかすこともできる。そしてスロットルを踏み込めば、本物のGT-Rのエンジンを体感することができ、脳はこれがGT-Rだと感じるだろう。トラクションコントロールやトランスミッションの制約もあってか、フルパワーを常に出すことはできないが、しかしいざフルパワーが発揮されれば、望んだ通りの加速とともに窓の外の景色は一気に移り変わっていくことになる。
パワーはあるものの、しかしこのモデルはあくまで製作途中のプロトタイプであるということを感じさせるものだった。Q70用の4WDシステムはパフォーマンス指向であるとは言いがたく、駆動力の約50%が前輪に配分されてしまう。このような車は、後輪によりパワーを伝えるべきであるはずだ。
タイヤも改善が必要だ。装着しているタイヤは前後同サイズの255幅のものである。確かに前後同サイズであればアンダーステアは抑制されるが、1,800kgの車重で560馬力の車をうまく走らせるためにはもっと幅広のタイヤである必要があるだろう。Q50オールージュは素晴らしい機敏さを持っていたが、リアデフの挙動はどこか人工的で、後輪のグリップは相対的に欠けているように感じた。しかし、こういった問題点はこの車が市販されるまでに改善されるだろう。私の望みは、機敏さを維持しつつグリップを向上することだ。ワイドタイヤを履けばきっと見た目もクールになるだろう。
市販されるモデルを妄想してみよう。4WDシステムはより洗練され、リアLSDは違ったものになっているかもしれない。タイヤは幅広になり、ブレーキによるトルクベクタリングシステムが装備されるかもしれない。そうすればきっと、素晴らしい4WD車となるはずだ。
レカロのシートやGT-Rのブレーキも必要だ。サスペンションチューンやエンジンはこのままがいい。というのも、Q70の5.6L V8エンジンや3.7L V6エンジンのスーパーチャージド版も検討されたという。
2016年モデルとして、プロトタイプを超えたインフィニティの「スーパースター」が世に出ることを望みたい。